不動産投資の営業現場で繰り返される言葉のひとつに「長期で持ってください」というものがあります。聞き心地はよく、じっくり資産を育てていくように思えますが、その裏側を知ると安心どころか不安要素の塊であることが分かります。なぜ営業マンがこのフレーズを多用するのか。その背景を見ていきましょう。
長期保有を前提とした営業トークの裏側
営業マンは、
- ローンを完済すれば老後の年金代わりになる
- 生命保険代わりになる
- 節税になる
といったセリフをよく口にします。いずれも投資家に安心感を与える言葉ですが、実際には割高な物件を長期間保有させるための方便に過ぎません。
割高な物件は短期間で売却をすると確実に赤字。そうなればクレームが発生するため、営業マンは必死で長期保有の重要性を説くわけです。
適正価格で販売される物件ならば、5年前後で損益分岐点を迎えられることが多いものです。
しかし割高なワンルームの場合は違います。短期で売却すれば数百万円単位の赤字が発生し、損益分岐点に到達するまで10年以上かかることも珍しくありません。なかには「35年間持ち続ければ安心」という営業すらありますが、これはもはや損益分岐点が来ない前提で売っているとしか思えません。
サブリース契約が追い打ちをかける
こうした”長期保有前提の営業”は、よくサブリース契約とセットになっています。サブリースとは空室時でも一定の家賃を保証する仕組みですが、実態はオーナーに不利な契約です。
- 家賃の10〜20%が手数料として差し引かれる
- 更新料なども不動産会社が受け取る
その結果、ただでさえ高額な物件がさらに収益性を失い、損益分岐点は一層遠のきます。つまり「長期保有」を強調する営業の背景には、売却を選ばせないための仕掛けが見え隠れしているのです。
サブリースであれば入退去の連絡も来ないので、不動産のことを考えるきっかけを与えないと言う点でも不動産会社の都合を感じます。
「騙された」となる瞬間
それでも現実には、短期で売却を検討する人もいます。
特に5年間保有すれば『長期譲渡』となり、不動産収益に対する税率が下がります。そのため、このタイミングで売却を検討する人も多いでしょう。
しかしその段階で売却すると、
- 1戸あたり500〜600万円の残債が残る
- 複数戸持っていれば残債が1,000万円を超えるケースも
という状況に直面します。この現実を前に「騙された」「詐欺だ」と感じる人が出てくるのは当然でしょう。契約上は詐欺でなくても、心理的には裏切られた感覚に近いものがあります。
一方、適正価格の物件であれば、5年も保有すれば2~300百万円の収益が見込めます。長期保有目線の物件を購入してしまうと、それだけ損をしてしまうのです。
これから投資を始めたい人へ
これから不動産投資を検討する人にとって重要なのは、短期から中期の出口戦略を具体的に語れる営業マンと出会うことです。
- 5年程度の保有で売却益を狙えるシナリオを示してくれる
- 複数戸を売却して得た利益を次の投資に回すなどの戦略を示してくれる
- エリアの再開発や地価上昇要因など、将来性の根拠を説明できる
こうした視点を持たない営業マンが「35年持ち続けてください」と言っているなら、その時点でやめた方が良いです。
すでに購入してしまった人へ
すでに割高な物件を買ってしまった場合でも、できることは残されています。
- 損益分岐点までの年数を把握する
- 家賃アップ交渉を試みる
- ローンの借り換えで返済負担を減らす
- サブリース契約の解除を模索する
- 売却時は複数業者に査定を取り、少しでも高値を狙う
売却すれば損失が確定しますが、保有中であれば打てる手があります。ただしサブリースの解約交渉は正面突破ではほぼ確実に門前払いになります。
まとめ
「長期で持ってください」というセリフは、一見オーナーの将来を思いやる言葉のようでいて、実際は割高な物件を正当化するための典型的なトークです。
その結果、オーナーが途中で売却を考えると大きな赤字を抱え、「騙された」という声につながります。
これから投資を始める人は出口戦略を語れる営業マンを選び、すでに購入してしまった人は冷静に現状を分析し、少しでも損失を抑える工夫を続けることが必要です。
一棟アパートやRCマンションをメインに投資。
サラリーマン時代に不動産投資を開始し、家賃収入50万円/月を達成し独立。
独立後、不労収入を増やすべく不動産会社や金融機関を開拓し、不動産投資の拡大に成功。
一棟アパートやRCマンションをメインにしていますが、メリットあれば区分、別荘やタワマンも所有しています。
不動産投資に大切なことは勉強ではなく、「順番と速度」です。
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